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千葉地方裁判所 昭和46年(ワ)126号 判決

原告

伊藤秋雄

ほか一名

被告

株式会社稲毛自動車教習所

ほか一名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは各自、原告伊藤秋雄に対し金一二一万円、原告伊藤洋子に対し金一〇九万円および右各金員に対する昭和四五年五月三日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並に仮執行の宣言を求める。

二  被告ら

主文同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  交通事故の発生

昭和四五年五月二日午後四時四〇分頃千葉市宮野木一〇六〇番地先路上に於いて訴外南雲利之運転、被告篠田同乗の普通乗用自動車(以下本件自動車という。)が訴外亡伊藤豊美(当時四才の女児―以下単に訴外豊美という。)に接触し同女は頭蓋骨々折、脳内出血の傷害を受け同月同日午後一二時ごろ労災会病院に於いて死亡した。

2  当事者の身分関係

(1) 原告両名は亡豊美の父母であり相続人である。

(2) 被告株式会社稲毛自動車教習所(以下単に被告会社という。)は本件自動車の所有者であり自動車運転の教習を業とする会社である。

(3) 本件自動車の運転手南雲利之は右教習所の生徒であり路上運転実習中右事故を惹起したものである。

(4) 被告篠田正弘は被告会社の従業員であり、右事故の際、本件自動車の助手席にあつて直接実習を指導していたものである。

3  帰責事由

(1) 被告会社は本件自動車の所有者であり、本件事故当時営業の目的である自動車運転の路上実習中本件事故が惹起されたものであるから自賠法第三条の運行供用者責任がある。

(2) 被告篠田正弘は本件事故当時本件自動車の助手席に乗車して生徒南雲利之の路上運転の技術指導にあたり時速五〇粁の速度で千葉市園生方面から千葉市宮野木方面に向けて事故地点にさしかかつた際、前方三四米位の地点進路左側に三名位の幼児を発見したのであるが、このような場合実習指導教官としては訴外南雲利之が運転技術未熟であるから適切な助言指導をなすことはもとより、幼児が路上に飛び出す危険のあることも考慮し、幼児に自車の接近を知らしめて避譲の措置をとらせるとともに何時でも停車して危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、単に「注意しろよ」と抽象的に述べただけで具体的な指示指導を始めとして何らの注意を与えなかつたため、南雲は速度を時速四〇粁程度に減速したのみで警音器の吹鳴や徐行をなさず漫然と進行した結果、本件自動車の近接を知らない亡豊美が道路中央に背を向けて二、三歩後退したのであわてて急制動の措置をとつたが時すでに遅く、接触事故を生ぜしめたもので民法七〇九条の責任がある。

4  訴外亡伊藤豊美の損害

(1) 逸失利益 金三一六万円

(イ) 亡豊美は事故当時四才の女子であるから平均余命は七〇年であり就労可能年数は四五年である。

(ロ) 昭和四三年賃金構造基本調査報告によれば女子二〇年の平均月収は三万一五〇〇円、平均支出は月一万五七〇〇円である。

(ハ) 四才児のホフマン係数は一六・六九五であるから亡豊美の逸失利益をホフマン方式で計算すると金三一六万円(万未満切捨)となる。

(2) 慰藉料 金二五〇万円

幼くして逝つた同女の精神的苦痛は著しいものがあり、その慰藉料は二五〇万円を下ることはない。

(3) 労災会病院治療費(三日分)金一二五、〇二二円(但し後記のとおり被告らにおいて支払済)

以上亡豊美の実損害は(1)(2)の合計金五六六万円となる。

5  右相続分

(1) 原告らは亡豊美の父母であり相続人であるから各二分の一宛金二八三万円の賠償請求権を相続した。

(2) 仮に亡豊美の慰藉料について相続の対照とならないとすれば金一二五万円宛を次の原告らの固有の慰藉料として追加する。

6  原告各自の慰藉料 各金五〇万円

原告らは幼稚園に入園して日も浅い前途春秋に富む長女を失つたもので、その精神的苦痛は筆舌につくしがたいものがあり、その慰藉料は各自金五〇万円を下ることはない。

7  弁護士費用 各金八万円苑

原告らは本件の円満な解決を求めて折衝を重ね、被告らに誠意なきため千葉簡易裁判所に調停を申立たが該調停も被告らは零回答に終始したため不調に終り、しかも被告篠田は本件事故につき罰金五万円の略式命令が確定しているにもかかわらず自己の非を認め謝罪する意思は片りんもなかつた。

そこで原告らは本訴提起を大塚喜一、田中一誠両弁護士に委任せざるを得ず、昭和四六年三月二〇日着手金として各八万円宛合計金一六万円を支払つた。

8  葬儀費(原告秋雄の支出分)

原告秋雄は亡豊美の葬儀を行い、その際僧侶に対する費用として金一五万円、祭壇仏具仏壇等の費用として金一五万円、会葬者の食事その他雑費として金二〇万円、以上合計金五〇万円程度を支出したが、総合算定方式に従つて本訴に於いては金二五万円を請求しうべきところ、被告らから葬儀にあたり後記の通り見舞金として金一〇万円香典として金三万円の交付を受けているので、右請求から差引いて金一二万円を請求する。

9  強制保険金の充当

(1) 原告秋雄の損害は前記5ないし8項の合計金三五三万円となる。

(2) 原告洋子の損害は前記5ないし7項合計金三四一万円となる。

(3) 原告両名は自賠責保険金四、六二三、〇〇〇円の支給を受けているので、その二分の一にあたる金二、三一一、五〇〇円を右請求額に充当する。

(4) そこで現在原告秋雄は金一、二一八、五〇〇円原告洋子は金一、〇九八、五〇〇円の請求権を有することになる。

10  よつて被告ら各自に対し原告秋雄は右金額の範囲内である金一二一万円、原告洋子は右金額の範囲内にある金一〇九万円及び右各金員に対する本件事故の日の翌日である昭和四五年五月三日より完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの答弁および抗弁

(答弁)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は認める。

3 同3の(1)のうち被告会社が本件自動車の運行供用者であることは認めるが、原告ら主張の責任があることは争う。(2)のうち被告篠田が路上教習のため教習生訴外南雲利之の運転する本件教習用自動車の助手席に同乗して技術指導にあたつていたことは認めるが、その余は争う。本件事故の発生につき被告篠田に過失のなかつたことは後記主張の通りである。

4 同4の(1)(2)の損害額は争う。(3)は認める。

5 同5の(1)のうち原告らが亡豊美の父母であることは認めるが、その余は争う。

6 同6は争う。

7 同7は争う。

8 同8のうち被告らから原告秋雄に対し見舞金一〇万円、香典三万円の交付があつたことは認め、その余は争う。

9 同9のうち原告らに対し自賠責保険金四、六二三、〇〇〇円の支払があつたことは認め、その余は争う。

(抗弁1――被告会社の免責)

(1) 被告篠田及び訴外南雲に過失はない。

本件自動車は前記のとおり訴外南雲が運転し、被告篠田が助手席に同乗して時速約四〇ないし五〇粁で本件事故現場にさしかかつたのであるが、現場の手前はゆるやかな下り坂であり衝突地点の約一〇米先には横断歩道が設けられているところから、横断歩道の約四五米手前で被告篠田は南雲に対し減速するよう指示し南雲は軽くブレーキを踏んだ。(これによつて横断歩道の直前では時速一〇粁程度に減速するはずであつた。)この時道路の左側前方約三四メートルのガードレールの下付近に幼児約三名位がしやがんで遊んでいるのを発見し、これら幼児が動き回る気配は全くなかつたが被告篠田は南雲に対し念のため注意を促している。しかも右幼児らのすぐ横の歩道上に大人が三人位立話をしていたので保護者が付添つているものと思われ幼児が突然車道に飛び出してくることは全く予想し得ない状況であつた。

ところが減速しつつ進行し約九メートルの至近距離に至つて幼児一名(亡伊藤豊美)が突然斜めに道路中央に向かつて駈け出してきたので被告篠田及び訴外南雲は急制動をしたが間に合わず右豊美の右後に自車の左前ライト付近が衝突したもので自動車の制動距離との関係上、この位置関係では衝突を回避することは不可能である。よつて被告篠田及び訴外南雲には過失はない。

(2) 原告らの保護監督上の過失及び亡豊美の過失。

原告らは亡豊美(当時四才九ケ月の幼稚園児)の父母として監督義務を負つていたところ本件事故当時これを怠り、そのため豊美は自宅より二〇〇ないし四〇〇米離れた交通量の極めて頻繁な道路を越え反対側まで遊びに行つてしまい、そのことが本件事故発生の一因となつている。また亡豊美自身、ガードレールの下付近で遊んでいて自動車の進行状況に全く注意を払わず本件自動車が約八米に接近してから突然道路中央に向かつて斜めに駈け出してきたため本件事故の発生に至つたもので、しかも豊美の横断個所の約二二米西側には押ボタン式信号機の設置がなされ横断歩道が設けられているにもかかわらず、これを横断しなかつた点にも重大な過失がある。

(3) 本件自動車には構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

(抗弁2――養育費等の控除)

仮に被告らに損害賠償義務があるとしても、原告らは亡豊美の親権者として同女の養育教育をなすべき義務があつたところ、同女の死亡によつて同女に対する養育教育費用の支出を免れたことになるのであるから原告らの損害額から養育費を控除すべきである。ところで当時四才九ケ月であつた豊美が成人に達するまで約一五年間に要する養育教育費は少くとも月平均一万円とし年額一二万円を要するので年五分の中間利息を控除して現価を求めると金一、三一七、六九六円となり原告ら両名はこれを半額ずつ負担すべきであるからその控除額は各自の分について金六五八、八四八円ということになる。

(抗弁3――過失相殺)

仮に被告らに帰責事由があつたとしても被害者側にも前記の過失があるのでその賠償額を定めるにつき斟酌すべきである。

(抗弁4――一部弁済)

本件事故につき被告会社は原告らに対し見舞金として金一〇万円、香典として被告ら名義で金三万円以上合計金一三万円を交付し、また亡豊美の入院治療費として金一二五、〇二二円を支払済である。

三  右抗弁に対する原告らの答弁

1  抗弁1の(1)のうち本件自動車が時速五〇粁で進行していたこと、ゆるやかな下り坂であること、横断歩道のあること、本件自動車の進行左前方約三四米のガードレール付近に三名位の幼児がしやがんで遊んでいたことはそれぞれ認めるが、その余の事実は否認する。(2)は争う。(3)は知らない。

2  抗弁2は争う。もともと損益相殺によつて差引かれる利得は被害者本人について発生したものであるのに対し、右養育費に関する利得は原告らについて生じたものであるから、これを控除する理由はない。仮に控除すべきであるとしても被告ら主張の月額一万円は高額にすぎるものであり月額五〇〇〇円以下にとどめるべきである。

3  抗弁3は争う。

4  抗弁4は認めるが、原告らは前記主張のとおりこれらを原告らの蒙つたそもそもの損害額から差引いて請求しているものである。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  昭和四五年五月三日午後四時四〇分ごろ千葉市宮野木一〇六〇番地先路上において訴外南雲利之運転の本件自動車が訴外亡豊美(当時四年)に接触し、これによつて同女が頭蓋骨々折、脳内出血の傷害をうけ同月四日午後一二時頃労災会病院において死亡したことは当該者間に争いがない。

二  そこで先ず本件事故が被告篠田正弘の過失によるものか否かについて判断する。

〔証拠略〕を総合して判断すると、本件事故現場は千葉市穴川方面から同市畑町方面に通ずる幅員約七米の県道上で、その西側(畑町方面寄り)約二二米のところに横断歩道があり、そこには押ボタン式の信号機が設置されていること、また事故現場の東側(穴川方面寄り)はゆるやかな下り坂でゆるく左にカーブしていること、また車道の南側には歩道があり右歩道と車道の間にガードレールが設けられていること、ところで被告篠田は教習所の指導教官として生徒南雲利之に本件自動車を運転させ、自らはその助手席に同乗して同生徒の路上運転を指導しつつ進行中本件事故現場の手前で約三四米前方左側のガードレール付近に遊んでいる幼児三名位を認めたこと、しかし訴外南雲は被告篠田から単に「注意しろよ」といわれたのみで他の具体的な指導もなかつたため、これを前方の押ボタン式信号機に対する注意を与えられたものと思い、とくに警音器を吹鳴することもなく、ただスピードを若干落としたのみで進行を継続したこと、ところが突然幼児らの中から亡豊美が道路を横断すべく走り出たためあわてて急ブレーキをかけ被告篠田も補助ブレーキを踏んだが及ばず本件事故に至つたものであること、なお当時生徒南雲は路上運転経験が四時間位であつたことがそれぞれ認められる。

以上の事実関係から考えると、およそ幼児が遊びに夢中のあまり接近してくる自動車の進行に気ずかず道路に飛び出すことが多いことは運転者として当然知つている筈であるから、これら幼児の動静に注意を払わず、警音器を吹鳴して警告を与えたり、危険を感じ次第いつでも停止できるよう直ちに減速徐行する等の措置をとらなかつた訴外南雲に運転上の過失が存することは明らかであるけれども、だからといつて被告篠田に過失がないということはできない。

すなわち、被告篠田は教習生南雲が運転未熟で注意に万全を期し難いからこそ指導教官として助手席に同乗しているのであり、右助手席には補助ブレーキもあるのであるから、前記のように危険の発生が予想された場合遅滞なく教習生南雲に対し警音器を吹鳴するように警告を与え、かついつでも停車できる程度に減速徐行するよう指示すると共に、教習生自身の操作が十分でない場合には自らも補助ブレーキをふんで減速徐行させる等の措置を講じ、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を有していたものと認められる。

しかるに被告篠田が南雲に対し単に「注意しろよ」と指示し、僅かに減速させただけで他に何ら具体的な指示を与えず、補助ブレーキもかけなかつたのであるからその点被告篠田にも過失のあつたことは明らかである。そしてさきの南雲の過失と被告篠田の右過失が競合して本件事故に至つたものといえるから本件事故は被告篠田の過失にも起因しているものというべきである。

この点につき被告らは亡豊美自身にも過失があつた旨主張するのであるが、本件事故当時同女が四才余であつたことは前記認定のとおりであり、従つて当時同女に事理を弁別する能力があるとはいい難いからそもそも本件事故の際の同女の行為をとらえて同女に過失があるということはできない。しかしながら原告らが亡豊美の父母であることは当事者間に争いがないから同人らは幼女である右豊美を保護監督すべき義務のあることは明らかであるところ、〔証拠略〕によると本件事故当時原告らが未だ弁識能力さえ有しない亡豊美を放置していたことが認められるからこの点原告らにも保護監督上の過失が存していたことは明らかである。

三  本件事故が被告篠田の過失によるものであることは右認定の通りであるから同被告が本件事故によつて原告に生じた損害を賠償する責任のあることは明らかである。

また被告会社が本件事故当時本件自動車の運行供用者たる地位にあつたことは当事者間に争いがなく、かつ訴外南雲、被告篠田に運転上の過失がなかつたといえないことは前記認定の通りであるから、その余の免責事由について判断するまでもなく、被告会社もまた自動車損害賠償保障法第三条本文により本件事故によつて原告らが蒙つた損害を賠償すべき義務があるといわざるを得ない。

四  そこで本件事故により亡豊美および原告らが蒙つた損害の額について検討する。

(一)  1 亡伊藤豊美の損害

(1)  逸失利益

〔証拠略〕によれば、亡豊美は本件事故当時四才で普通健康体であり、その家庭は父親である原告秋雄が現在日産通輸に勤務している普通の勤労家庭であることが認められるところ、昭和四四年簡易生命表によれば普通健康体の女子の平均余命年数は七〇年余であるから、特段の事情のないかぎり亡豊美は本件事故にあわなければ七〇才余まで生存し、その間少くとも二〇才以後は一般労働者として働き、結婚適令期において結婚し、その後はいわゆる家事労働にたずさわるものと推認することができ、この場合、家事労働力は満六〇才までは通例一般女子の労働賃金に相当する収益を得べき見込あるものとして評価するものが相当である。

ところで昭和四三年賃金構造基本統計調査報告によれば女子二〇ないし二四年の平均月収(賞与と特別給与額を含む)は金三一、五〇〇円であり、その場合生活費は収入の五〇パーセントを超えないものと認めるのが相当であるからこれを差引くと、その二〇才時における一年間の純収益は金一八九、〇〇〇円ということになる。そしてその後六〇才までの四〇年間は毎年右金額を下らない純益をあげえたものと認めることができ、しかもこの間の純利益総額の現在価格を年五分の中間利息を控除してホフマン方式で計算すると金二、七九七、〇二七円(円以下切捨)となる。

(2)  慰藉料

被害者の年令、健康状態、家庭状況その他諸般の事情を考慮すると本件事故により亡豊美の受けた精神的苦痛に対する慰藉料として金二〇〇万円が相当である。

(3)  労災会病院治療費

〔証拠略〕によれば亡豊美は事故後直ちに労災病院に運ばれ、死亡するまで三日間入院治療をうけ、その間の入院治療費は合計金一二五、〇二二円であつたことが認められる。

2 原告ら自身の損害

(1)  慰藉料(原告ら)

〔証拠略〕によれば亡豊美は原告らの長女でまだ幼稚園に入園したばかりであつたことが認められるところ、この幼げな我が子を本件事故により失つた原告らの精神的苦痛は察するに余りがあるので、前記亡豊美固有の慰藉料額等を考慮すると、原告らに対する慰藉料としては原告それぞれ金五〇万円をもつて相当と認める。

(2)  葬儀費用

〔証拠略〕によれば亡豊美の葬儀は原告伊藤秋雄が主宰してこれを行い、これに要した費用も同原告がこれを支出したことが認められるところ、原告らの生活程度、亡豊美の年令等を考えると原告秋雄は少くとも金二五万円を支出したであろうことが推認されるので、葬儀費用として金二五万円の請求額は相当である。

3 以上によれば亡豊美および原告らが本件事故により蒙つた弁護士費用を除く損害の額は亡豊美につき1の(1)ないし(3)の合計金四、九二二、〇四九円、原告秋雄につき2の(1)(2)の合計金七五万円、原告洋子につき2の(1)の金五〇万円となる。

(二)  ところで被告らは原告らが亡豊美の死亡によりその親権者として負担すべき養育料の支出を免れたことになるので損害額はこれを控除して算定すべきである旨主張するのであるが、なるほど原告らが豊美の死亡によりその後これに要すべきいわゆる養育料の支出を免れることになること被告ら主張のとおりであり、この場合少くとも亡豊美の逸失利益分から右養育料相当額を控除しないことは衡平の見地からみてすべての場合に必ずしも妥当とはいい難いけれども、本件において当裁判所はすでにこのような負担の均衡を考慮して亡豊美の逸失利益につきいわゆる初任給固定方式によりきわめて控え目な算定方法をとつているのであり、この上さらに養育費を控除することはかえつて衡平の理念に反することになるので、この点に関する被告らの主張は採用しない。

(三)  しかしながら本件事故につき、原告側にも過失が存したことは前記認定のとおりであるから、これを斟酌するときは前記損害額のうち被告の負担する範囲はその七割をもつて相当と認めるべく、従つて被告らが賠償すべき額は亡豊美の損害につき金三、四四五、四三四円(円以下切捨)、原告秋雄につき金五二五、〇〇〇円、原告洋子につき金三五万円となり、しかも亡豊美の損害賠償金三、四四五、四三四円については同人の死亡により原告らは父母としてそれぞれ二分の一にあたる金一、七二二、七一七円を相続したことが認められるので結局原告秋雄分は金二、二四七、七一七円、原告洋子分は金二、〇七二、七一七円ということになるが、これについて原告両名が自賠責保険金四、六二三、〇〇〇円の支給を受けていることは当事者問に争いがないので、それぞれその二分の一にあたる金二、三一一、五〇〇円をその損害額に充当すると、結局原告らが被告らから賠償をうける分はすでにこれによつて消滅していることが明らかである。

(四)  そうすると原告らが本件訴訟を提起すべき理由はないから本件訴訟の提起を委任したことによる弁護士費用をもつて本件事故と相当因果関係のある損害ということもできない。

五  よつて原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 鈴木禧八)

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